77ページの絵「大山の良弁堂に祭られている良弁を助ける猿の像」
今回は、せっかくなので、『新編相模国風土記稿』の江戸幕府地誌調所旧蔵本と写本3種類の絵を比べてみます。
注目点は
・猿のおでこの一番上のしわ・・・内閣文庫本は額の上部の線とくっ付いています。
・良弁の左手の袖・・・陸軍文庫本には描かれず、内閣文庫本ではしっかり描かれ、刊行本2種類ではほんのちょっと描きます。
・猿の右膝裏のしわ・・・内閣文庫本にだけしわがありません。
・猿の左膝裏のしわ・・・刊行本2種類にだけちょっと線が見えます。
大日本地誌体系本の底本は鳥跡蟹行社・谷野遠本なので、この絵に限らず刊行本2種は細部にわたってよく似ています。そして、この刊行本と内閣文庫本は本文も絵・図像も筆写間違いの箇所がほとんど一致しないので、明治の初期、それぞれ別に筆写作業が行われたことがわかります。
なお、この大山についての記述がある大住郡巻之十の陸軍文庫本は一部ページの順番がぐちゃぐちゃになっていました。明治時代の筆写作業で綴じ込みをばらしてまた綴じ直す時にやらかしたんだろうと思います。
※ 研究者の方は拙稿「相模の一山寺院と『新編相模国風土記稿』地誌調書上-大山寺と光勝寺-」(『山岳修験』第65号、日本山岳修験学会 2020)をご参照ください。
いずれにしても、『新編相模国風土記稿』の原本と断定できる陸軍文庫本は国立国会図書館の古典籍資料室に行かなければ閲覧できません。しかも複写を入手するのに、見開き一枚につき、撮影130円+入紙13円+フィルム伸ばし70円、計213円。大住郡だけ入手するのにも20万円ぐらい?これは行政府が文化行政としてやるべき仕事でしょう?
現在、多額の予算を使って編纂された神奈川県内の各自治体史資料編に掲載されているのはすべて内閣文庫本か刊行本、そのまま載せているか活字化しているか、いずれにしても税金の使い方としてはもったいなかった。これから自治体史を編纂する自治体が江戸幕府地誌調所旧蔵本(陸軍文庫本)を住民の皆様のために活用して下さることを祈るばかり。
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